国会の開会式

東中光雄衆議院議員は、衆議院議院運営委員会の理事になり、国会開会式の民主的改革を訴えました。これが、足かけ28年にわたる議運での初仕事でした。

1973年(昭和48年)1月26日(金曜日)衆議院議院運営員会

海部俊樹委員長 次に、開会式に関する件についてでありますが、開会式の日取りにつきましては、理事会の協議により、明27日午前11時から行ならことに決定いたしております。
 次に、式次第について御協議を願います。
 この際、日本共産党。革新共同の東中君から発言を求められておりますので、これを許します。東中光雄君。

○東中委員 私は、日本共産党・革新共同を代表して、開会式の民主的改革について提案したいと思います。
 私は、国権の最高機関であり、主権者である国民の代表機関である国会は、当然現行憲法主権在民の原則と諸条項を最も厳格に守るべきだという見地から、従来の国会開会式のやり方を根本的に再検討し、憲法に定められた天皇の権能を逸脱する天皇の出席や発言を取りやめ、衆議院において開会式を行ならことを提案するものであります。
 従来の国会開会式は、国会法第九条で「開会式は、衆議院議長が主宰する。」と明記しているにもかかわらず、参議院本会議場で行なわれ、天皇が出席し、式次第も、衆議院議長の式辞に続いて天皇のことばを賜わるというものであり、全体として天皇中心に行なわれ、天皇を主権者とした戦前の帝国憲法時代の開院式のやり方を多くの点でそのまま踏襲しておるのであります。
 国会開会式が、戦前の帝国議会開院式と全く異なる性格のものであることは、第九十一議会において、国会法の提案理由を述べた田中萬逸議員が、従来の開院式は皇室儀制令にその規定があり、かつその開院式によって議会に活動能力が与えられたのであり、今後の国会では、召集即開会となるので、法律的にいえば開会式は不要であります、と述べていることからも明らかであります。開院式は統治権の総攬者とされた天皇が中心になったのであるが、主権が国民に存することが明記された日本国憲法のもとで、国権の最高機関の地位を持つとされた国会では、開会式そのものが法律的には不要であるとさえいわれるものであって、天皇が出席する必要は全くないし、開会式のやり方は不変というよらなものではないのであります。それにもかかわらず、今日の国会開会式が天皇中心であって、帝国議会当時の開院式と同じやり方で行なわれることは、明らかに主権在民憲法の規定に反するものといわなければなりません。
 次に、一そう重大なことは、第一回国会以来、天皇のおことばなるものの中に、常に国政に関する政治的発言が含まれてきたことであります。たとえばアメリカの対日占領政策への支持と感謝の態度を表明したり、サンフランシスコ体制を押しつけてきたアメリカ政府などに感謝をしています。最近の国会では、国民の批判無視して、自民党政府の内外政策とその成果をたたえ、自民党政治への肯定的態度を常にとってきたのであります。
 開会式に天皇が出席してこの種の政治的発言をするという行為は、法令上何の根拠もないものであるばかりでなく、日本国憲法主権在民の原則にも、天皇の権限について「天皇は、この憲法の定める國事に關する行爲のみを行ひ、國政に關する權能を有しない。」とした第四条の明文の規定にも明らかに違反するものであります。
 天皇の国事行為の中に国会の召集が含まれていても、それは、召集詔書を公布することであって、開会式への天皇の出席が含まれないことは言うまでもありません。天皇が象徴たる地位にあるからといって、憲法で限定的に規定をしている国事行為以外の公的行為を行なう権限が発生するいわれのないことは、これまた明らかであります。いわゆる象徴行為説も根拠のないものであります。天皇の国会開会式への出席、発言は、憲法に定められた天皇の権能を逸脱するものであることは明らかであり、とうてい許されないところであります。
 以上の理由により、私は、国会開会式は、天皇の出席を取りやめ、衆議院において行なうよう提案するものであります。
 この提案は、主権在民の原則を定め、その見地から天皇の権能を厳格に規定している日本国憲法の規定を守り、国会法の規定にのっとって国会の民主的運営をはかろうとするものであって、君主制廃止という一定の政治的立場やイデオロギー的な理由によるものでないことは言うまでもありません。したがって、将来の政治制度についての見解のいかんにかかわらず、日本国憲法下の国会運営の当然のあり方として、各党の賛同を得らるべきものだと考えるのであります。
 一九四七年、第一回国会当時、日本共産党所属の一部議員が開会式に出席し、そのやり方を見聞した後、わが党議員団は、この二十数年間一貫して、天皇が出席しておことばを賜わるという憲法に反する開会式に反対して、その意思表示として開会式に欠席し続けてきたのであります。
 私は、日本共産党・革新共同が三十九議席を得て、国会運営に、より積極的な責任を負うに至った今日、最初の国会開会式を迎えるにあたって、国民と国会に対する責任として、日本国憲法に反し、主権在民の原則に反する開会式の慣例を改めて、開会式を民主的に改革するため、この提案を行なうものであります。
 以上です。

○海部委員長 ただいまの東中君の御発言に対し、各党から発言を求められておりますので、順次これを許します。小渕恵三君。

○小渕委員 ただいま日本共産党・革新共同より提案のありました開会式の改革案については、わが党は、以下申し述べる理由により反対であり、開会式は、従来どおり変更なく挙行せられるよう希望するものであります。
 すなわち、各国会ごと行なわれている開会式は、新憲法公布後初めての昭和二十二年六月の開会式以来、天皇の御臨席をいただき挙行され、よき慣例として継続されてきたものであり、あえて今国会より変更すべき特別かつ積極的な理由を見出し得ないからであります。しかも、この開会式の形式は、戦後二十二年五月、国会法が成立したとき、共産党も含めた各派協議会で満場一致できめられた経緯にかんがみ、また、二十六年間特別の異議もなく続けてきた慣行に対して、あえてその変更の必要はないと考えるからであります。そして共産党の提案が、その綱領の中に、君主制を廃止し、人民共和国をつくると明記されている党の年来の主張に立脚しての今回の提案でなく、将来の政治制度をどうするかという展望と関連してでなくとあえてお断わりしての今回突然の改革提唱は、まさに唐突の感を深くするものであり、理解に苦しむところであります。
 また、共産党の主張によれば、天皇の国会御臨席とおことばは憲法に違反する行為との解釈でありますが、わが党は全くこれらの点についても意見を異にするものであります。
 すなわち、天皇の国会御臨席は、現憲法下特に成文化されなくとも、現国会法制定時における論議に明らかなように、衆参両院議長の「御臨席をお願いしたい」との申し出にこたえられて、国会のお客様として開会式に臨まれるのであり、そして、その天皇の御臨席される行為も、憲法第一条の日本国及び日本国民の象徴というお立場から御臨席されているものであり、憲法違反との主張は、全く論外であるとわれわれは考えるものであります。
 さらに、共産党は、開会式に臨んでの天皇のおことばを問題にされており、しかもその内容が、わが党を利するための政治的御発言であるとの主張は、全く当たらないのであります。
 なぜなら、共産党があげている幾つかの具体的な例といわれるものを見ても、そのどれをとりましても、すでに国権の最高機関で意思決定せられた事柄に対して感想を述べられたものであり、決して予見や国会の意思を左右させるたぐいのものではなかったし、まして一党を利するためのおことばでないことは明白であります。そしてこれらは、共産党の指摘するように、天皇の行なう国事行為の範囲を越えた、憲法の規定を越えた内容とは全く考えられず、したがって、憲法四条に違反するとの主張は全く見当違いとわれわれは考えるものであります。
 つけ加えて一言申し添えます。
 最近の開会式における議員の出席率は、必ずしも高いとは思われません。せっかく今回、開会式問題が当議院運営委員会の場で久しぶりに問題提起され、意見開陳の行なわれます機会に、もし従来どおり挙行さるるべしとの決定が民主的採決によってなされるならば、開会式を行なうことは国会議員共同の責任において挙行せられることと再確認されることともなるので、当委員会の決定を各議員に周知せられ、お招きする側の儀礼上からも、議員おのおのが連帯の責任を果たされ、出席されるよう、委員長において十分な配慮を行なっていただきたく、強く希望いたしておきます。
 以上がわが党の考え方であります。

○海部委員長 勝澤芳雄君。

○勝澤委員 日本社会党の意見を申し上げたいと存じます。
 いま東中君から、天皇を国会にお呼びすることについて、開会式について御意見がありましたが、その骨子は、第一に、開会式に天皇の出席は取りやめさせるべきであるというものであり、第二は、衆議院において行なうべきであるという二つの主張であります。
 まず第一の天皇の出席でありますが、これは、先ほど自民党の小渕君からも御説明されておりましたように、新憲法ができた当時、国会の開会式のやり方について、各派協議会において十分議論をされた、そして満場一致で、国会は会期の初めに開会式を行なうということが国会法の第八条できめられ、そして第九条において「開会式は、衆議院議長が主宰する。」こうきめられておるわけでありまして、当時の記録を見てみますと、各派協議会で各党一致これが取りきめられ、そしてむろん共産党も賛成しておられるわけであります。
 しかも、この開会式をやる以上、お客さんをどうしようかというお話の中で、憲法第一条に基づく天皇を開会式に呼ぶことはいいだろうということも、これも満場一致できめられて、そして、開会式のお客さまとして天皇の出席を要請いたしてきた経過があるわけでありまして、それが長い慣習として今日まで憲法上からも何らの疑義がなく、また国会法の上からも何らの疑点なきまま今日まで来たわけであります。
 しかも、今回の共産党の申し出は、突然なことでありまして、これについてやはり国会の慣例というものは十分お互いに議論をし尽くして、そして慣例を積み上げてきて、理解と納得のいく修正がなされておるわけでありまして、実は何かためにせんための発言のように思えてならないわけであります。今日、いかなる理由でこういうことを唐突として発言しなければならないかということについて実は理解に苦しむわけであります。
 したがって私は、やはり開会式は、従来行なわれているように、慣習に従って天皇の御出席を要請し、おことばを賜わることについては、何ら差しつかえないものと存じます。
 また、開会式をいま参議院で行なっているのを、衆議院で行なえということであります。これは、いまの開会式の式場からいって、参議院のほうが都合がいいからということで行なわれていることであって、このことが必ずしも憲法上の問題になることではないと存じます。むしろ国会法で明確に「衆議院議長が主宰する。」と決定されておりますし、またそのように運営がされておるわけであります。
 また、開会式の必要性にも言及しておりましたけれども、「開会式は、会期の始めにこれを行う。」ということが、実はこれも国会法できめられておるわけであります。したがいまして、やはり慣行として行なわれてきたことでありまして、重大な支障があるとするならば別でありますけれども、今日までの慣例からいって何ら異議がなく行なわれてきたことでありますから、従来どおり行なうことに対して、わが党は賛成をいたす次第であります。

○海部委員長 大久保直彦君。

○大久保(直)委員 日本共産党・革新共同からの開会式に関する御提案につきましては、要約いたしますと、開会式を衆議院で行なえ、それから第二には天皇を開会式にお招きするなということでございましたが、この開会式の持ち方につきましては、旧憲法から新憲法に移行する際に取りきめられました各派協議会の合意によるものであると承知いたしております。
 日本共産党・革新共同の主張は、当初、天皇発言に違憲性があるということでございましたが、今日は、天皇の出席自体にも違憲性があるという御意見でございました。日本共産党を含めた各派協議会で合意いたしました段階から、今日、天皇の開会式における参加に異議ありとする理由は、わが党として納得しがたいものでございます。
 公明党といたしましては、天皇を開会式にお招きすることは、民主議会制度をそこなうものにはならないと考え、従来どおりの開会式を行なうことに異議はございません。
 第二の衆議院で行なえという問題でございますが、国会の開会式は、本来衆議院議長が行ない、衆議院で行なうべきであると存じます。現在、衆議院議長が開会式を主宰し、参議院の議場で行なわれておるわけでございますが、議場が参議院のほうがベターであるという意味であるのなら、その慣例に特に異議を持つものではありません。よって、現在の開会式を従来の慣例のまま行なうことに賛成でございます。

○海部委員長 塚本三郎君。

○塚本委員 開会式に天皇陛下をお招きする件につきましては、その手続が正当に行なわれて今日に至っており、それは議会のよき慣例と考えておりますので、今後とも従来どおり賛成をいたします。
 それから会場を衆議院で行なうことにつきましては、もちろん、それが衆議院で行なわれることのほうがよりベターであるとは考えておりますけれども、憲法に定められた国民の象徴をお迎えする場所として、参議院の本会議場がよりふさわしい場所として現在すでに物理的にでき上がっておりますので、それを利用してきた過去の慣例を今後とも踏襲しても、決してそれは衆議院の主体性をそこなうものではないと考えております。そのことは、主宰者として衆議院議長がとり行なっておるという事実からも明らかだと思っております。
 最後に、もし天皇さまをお迎えすることについての問題があるとすれば、そのおことばの中身についてだろうと受け取っております。しかし、今日まで、天皇陛下の開会式に対するそのおことばの中身については、もちろん国民の象徴たるべき天皇の発言でありまするから、議会の審議の中身に影響を及ぼすべき中身であったら問題だと思っております。しかし、いままで一度として、これから行なわれんとする審議の中身について御発言があったことはないと受け取っております。
 なお、行なわれてしまった過去の審議の問題につきまして、あるいは内閣の行為につきましても、その発言は過去だからいいというものではないと思っております。その発言はたいへんな権威をつけられるものでありますから、次の国政の審議に対して影響力を著しく与えるものであるならば、これも考えなければならぬと思っております。
 しかし、ずっと共産党さんの触れられた中身の点等を考えてみますると、過去に行なわれた、審議せられてしまった法律案や審議状況等についての御発言の中でも、次に来たるべき審議への影響力を与えるものはないと思っておりまするし、若干、反対党の立場から見るならば、おもしろくない発言もあったかと思いますが、この程度のものならば、それは国政に関する行為と受け取るべきではないと考えておりますので、おことばの中身として今日まで程度の発言であれば、国政の発言ではないと受け取って、今後とも続けてしかるべきではないか。したがいまして、私どもは、従前どおりお客さまとしてお迎えすることに賛成であります。

○海部委員長 それでは、各党の御意見が一致いたしませんので、採決いたします。
 開会式の式次第は、従前の例によるお手元に配付の案のとおりとするに賛成の諸君の挙手を求めます。

○海部委員長 挙手多数。よって、さよう決定いたしました。
 開会式には各議員が出席されるように希望いたします。

○海部委員長 なお、式辞につきましては、その案文をお手元に配付いたしてありますが、この際、事務総長の朗読を求めます。

○知野事務総長 朗読いたします。
    第七十一回国会開会式式辞(案)
 天皇陛下の御臨席をいただき、第七十一回国会の開会式をあげるにあたり、衆議院及び参議院を代表して、式辞を申し述べます。
 昨年十二月十日衆議院議員の総選挙が行なわれ、同月二十二日をもつて特別国会が召集されたのでありますが、われわれは、この際、決意を新たにして国政を議し、議会制民主主義の機能を十分に発揮し、内にあっては国民生活の安定、福祉の向上、外にあっては諸外国との平和と友好の維持増進に、たゆみない努力をかさね、わが国が当面する諸問題の解決をはからなければなりません。
 ここに、国会は過般の総選挙による新議員を迎え、われわれに負荷された重大な使命にかんがみ、日本国憲法の精神を体し、おのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もつて国民の委託にこたえようとするものであります。
 なお、ただいま式次第は従来どおりと決定されたわけでございますが、先ほどの理事会におきまして、日本共産党・革新共同の東中理事から、先ほど御発言の趣旨によりまして、開会式式辞案の「天皇陛下の御臨席をいただき、」ということばは要らないのではないかという発言がありましたことを申し添えます

○海部委員長 それでは、式辞は、お手元に配付の案文のとおりと決定するに御異議ありませんか。

○海部委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。